手織りの価値 手織りにしかできないこと【織分け】
●手織りの価値。手織りにしかできないことがある。
人生が楽になる着物ブログ、あのねです。
アートと染織を学んできて、現在着物メーカーで働く私が着物で毎日が楽しくなるお話をしています。
今回は手織りと機械織は何が違うのか?
手織りと言うと手作業で織るので手間がかかっているから価値がある。
そう思っている人は多いと思います。手作業だから高価。それは間違いではありません。
機械で一日一本織るような帯もあれば、手作業で何十日もかけて織るような帯もあります。
そうなってくると人件費が大きく変わるのは事実です。
では、なぜ機械が発達しているのに手織りをするのか、
それは人の手で手織りしないと織ることができない帯があるからです。
その一つが多色使い。織り分けといいます。
本日はなぜ織り分けに魅力があり価値があるのかについてお話していきます。
●織物の中で理論上無限の色が使えるのは手織りだけ。
手織りは何がいいのか。それはもちろん手作業であるところです。
工芸品においては手作りであることをとても価値があることだと言われます。
作家さんの一点ものなど手作りでしかできない味わいに人は価値を感じます。
私もそう思いますし、限定感があるほど魅力を感じるのは事実だと思います。
でも、手織りと機械織りはその技術に大きな違いがあるんです。
だから手織りは価値があるとも言えます。
その違いは、手織りは自由に色を変化させて使うことができるということです。
機械織りの場合は機械で早く織れますが、使える色の数や配色の仕方に制限があります。
しかし、手織りであれば理論上無限の色数を使うことができます。
どういうことなのか解説していきますね。
●手織りが高いのは技術の違い。
今、配色の勉強の為に担当させてもらっている帯は手織りの帯です。
— あのね【人生が楽になる着物ラジオ】 (@aNone_Craft) 2021年4月24日
そのため、機械織の帯と違ってものすごくたくさんの色糸を使うことができます。
機械だからできることもありますが、手織りだからできることもあります。
手織りは手間がかかるだけでなくその技術に価値があったりします。
手織りは人間の手で織り込む横糸を動かしていくので、機械織りと織り方が違います。
横糸を入れるときの力加減も調節ができますし、
織るときには筬(おさ)という道具でギッコンガッタンと打ちつけながら織っていくのですが、打ちつけるときの力加減も変えることができます。
人間の感覚で調整できるので機械にはできない繊細な作業ができます。
色数についても同じです。
手作業で色糸を入れるので何度でも糸を変えることが可能です。
●機械織りの場合は色をセットしておける場所に限りがある。
機械織りは電気を動力に織っていくので人間が手作業で織っていくのに比べて、圧倒的に早く織れるのが魅力です。
しかし、デメリットもあります。
それは色をセットして置ける場所に限りがあることです。
手織りの場合は人間の手で色糸を変えていましたが、機械織りの場合は杼箱(ひばこ)といって、
杼(ひ)という横糸を巻いた道具をセットしておく場所があります。
機械の型などによっても違いがあったり、織機にもいろいろなメーカーのものがあるので杼を使わない織機もあるのですが
横糸に使う色糸をセットしておかないといけないという点ではほとんどの織機で共通しています。
そのため、機械織りの場合は一度に使える色数には制限があります。
また、経糸(たていと)の上げ下げをしてその間に横糸を通すので織物では模様を作ることができるのですが、
その経糸を織機では紋紙(もんがみ)という、すごく簡単に言うとオルゴールのような機械で制御しています。
一部の織物を除いて、手織りも機械織りもこの紋紙の通りに織ることで柄を作るのですが、
手織りの場合はこの紋紙で経糸を制御してあげた部分の一部を赤の糸で織って、他の部分を黒で織るなどの織り分けができます。
これは機械にはできません。機械織りの場合は同じ紋紙で制御されている一列分については同じ色でしか織れません。
別の色に分ける場合はもう一枚分、紋紙のデータが必要になります。
この紋紙の数が増えれば増えるほどコストがかかるので、複雑にすればするほど織るのも難しく、機械で織っているコストの低さというメリットがなくなっていきます。
この織り分けは手織りにしかできない技術です。手織りの方がより複雑な配色の織物を作ることができるのです。
●しかし、機械織りの職人さんも、ものすごい技術を持っています。
ここまで聞くと、手織りがすごくて機械織りはすごくないように聞こえますが逆に機械織りにしかない魅力もあります。
何と言っても手織りは時間も手間もかかるのでコストがかかり、値段もびっくりする値段がついたりします。
もちろんそれだけの価値もありますが、みんなが持てる物ではないかと思います。
それに、機械織りは機械が織っているから職人さんは何もしないで自動で織ってくれるのかというとそんなことは全くありません。
経糸の張り具合を調整したり、織りやすい部屋の温度や湿度の管理、何より機械がスムーズに動くように様々なメンテナンスの知識が必要です。
トラブルが起きて糸が切れてしまったりしたら何千本もの糸をつなぎなおしたりもします。
手織りに比べると一本あたりにかかる時間は短いかもしれませんが、
織りあげるのにかける手間はとても多いです。
私は手織りもしたことがありますし、機械織りの機械も触ったことがありますが手織りの方がアナログで調整できるので自分にはやりやすいかもしれないと感じたぐらいです。
それぐらい専門的な技術が必要になります。
●手織りと機械織りは手仕事か、機械かの違いではない。
ここまで、手織りと機械織りの違いについてお話してきました。
まとめてみると、
- 手織りにしかできない技術がある。手作業だから高いというだけではない。
- 手織りは理論上無限の色が使える。機械織りは制限がある。
- 手織りは機械織りよりも複雑な色の織り分けができる。
- 手織りと機械織りは技術が全く違う。それぞれに難しさがある。
以上のような内容でしたね。
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